メインアーム: モシン・ナガン 狙撃銃
バリーリンドン ものづくりの目線から
今回は制作日記ではなく、映画のレビューのような内容になっております。正直長いです...。すいません。
久しぶりにバリーリンドンを観ました。戦列歩兵を愛する私にとってバイブルのような作品です。
この映画は主人公であるバリーの人生を追う物語です。
初恋の相手への意地からの決闘、故郷を追われ兵隊に、兵隊を抜け賭博師となり、金への執着からリンドン家への接近し、そして貴族になるため家族を利用する。敵や味方を作っては失い、最後には決闘を申し込まれる。
当時として最高品質の撮影や衣装、舞台背景のこだわりを貫きアカデミー賞を数部門受賞した本作。
私は監督であるスタンリー・キューブリック氏の、ものづくりをする人として一番尊敬する点を簡単にここに記したいと思います。
それは単純明快です。「物語でいかなる不条理や蛮行が起きようとも、登場人物の誰も指摘しないこと。」これに尽きます。要はツッコミ役不在の世界を描いているのです。これは作品、特に物語を描こうとする立場で考えると非常に勇気のいる行為なのがわかります。
指摘をする役は視聴者の立場や常識に立った、作品と観客をつなぐハシゴのような存在です。これを用いずに大作を作れば、下手をすれば視聴者がおいてけぼりを喰らう作品になるリスクを伴います。しかしスタンリー・キューブリック監督は絶対に指摘する役を作らず作品を完成させるのです。これは完璧主義と言われた彼のような人でしか絶対になしえない事なのです。
ものづくりの人間はいつも不安で作品を作ります。「完成した作品が理解されなかったら嫌だな。」「もっと説明する人を増やした方がいいんじゃないかな。」こういった風に。それはそうです、作品作りは多大な労力を費やし、さらにそれを商業にも繋げなくてはならないのですから。
しかしスタンリー・キューブリック監督は違うのです。彼は「バリーの欲望に忠実で横暴とも言える、人間臭い人生の断片をただ視聴者に見せつける。」これだけを貫いているのです。
だから彼は撮影や衣装、舞台設計に完璧を求めるのです。貫きたい想いがあるからこそ、人が常識で考えうる「作品の王道的価値」に妥協しないのです。王道を制しているからこそ、指摘する人間が不在という物語のジャンルとしては異端な本作に人々は魅了されるのです。
人生は、誰も主人公ではありません。ただ生きて何かをし、何かが原因で死ぬのです。それを冷徹なまでに描ける人間が、果たしてこの世界に何人いるのでしょうか。ほとんどの人が自分を出来るだけ良く見せて、悪い所はなるべく見せない。しかしそれは本当の人間の姿ではないのです。本当の人間は汚いのです。汚いに善も悪もありません。しかし人間は汚いのが正解なのです。
バリーリンドンの映画の名シーンである、レッドコートの戦闘シーン。射程距離に近づくまで発砲せず行進。相手に撃たれて味方がバタバタ死んでいっても止まらずに進み、有効射程に入ったら発砲する。戦列歩兵の代表とも言える合理的な戦法ですが、これほどまで常軌を逸した戦法もまたありません。私は少なくともそう思っています。ただ合理的なだけで、人の命など二の次なのです。絵として綺麗なのがまた感慨深いのですが。
人間、そして戦列歩兵のありのままの姿を美しい皮肉を込めて作るスタンリー・キューブリック監督。ものづくりの本質を見逃さぬ彼を、私は心から尊敬しております。
もし最後まで私の駄文を読んで下さった方がいましたら、心からの感謝を申し上げます。
ものづくりの世界に栄光と暗闇あれ。
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コメント 4
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屠龍
バリー・リンドン、いい映画ですよねぇ。
と言いながらも戦列歩兵映画はまともに見たのはワーテルローのみだったり、
戦闘シーンだけニコニコで見ました。
自分は機械工学の専攻なので将来ものづくりに携わっていくことになるでしょう。
完成された作品が評価されない悔しさ、よくわかります。
要求を満たしつつ、デザインもある程度要求される世界ですのでPCでのシミュレーションだけでも非常に時間がかかる。
さらに実際に作って実験となるとさらにお金も時間もかかります。
ですがそれだけ突き詰めることが技術発展や文明の進歩につながるんでしょうね。
おもちゃの兵隊
<屠龍さん 機械工学の専攻をされているんですか!私はデザインとアニメが専攻なので立体の人は魔法使いのような存在です。どうしてあそこまでの正確無比の造形が...頭が下がる思いです。
技術開発とものづくりは確かに文明を発達させましたよね。私も、ものづくりを通じて少しでも世の中が楽しくなったらいいなと願いを込めて、頑張ろうと思います。
Red coat
自分にとってのバイブルはメルギブソン主役のパトリオットだったりします。バリーリンドンは途中で見るのをやめてしまった^^;
おもちゃの兵隊
<Red coatさん パトリオットは熱い映画ですよね〜。戦争映画をほとんど観ない家族も最後まで夢中になってました。メルギブソン倒そうと頑張る騎馬隊長さんがお気に入りです。