仕事が一息つけたので、息抜きの戯れ言にお付き合い戴ければ幸いであります。

 記事としては発表してませんが、以前、初速・落差・HOPなんかの関係を簡単なモデル計算で説明出来ないかとチャレンジした事があります。自分が理解出来ているかを確認するのに、文章化して他人に説明出来るかを試すってのは非常に有効なので。
 目的は、「弾道は、初速と揚力(≒HOP回転)”だけで”説明のつく、原理としては非常に単純な物理現象である」事を明確にしたかったからです。
 その結果をお蔵入りにしたのは、ご想像の通り、あまり良い結果が出なかった(現実に近い結果が出せなかった)からです。

 今回、ちょっとリベンジして、割と納得のいく結果が出たので、公開したいと思います。

 結論から言うと、お蔵入りした検討の失敗理由は、初速やHOPの減衰を等加速度運動だけで説明出来ないかと頑張った為。
 今回割と上手くいったのは、従前の等加速度の部分を加加速度の計算で置き換えた為でした。

 まず。
 物事を単純にするため、初速の減衰は無いものとします。その状態で、まず、HOP無しの弾道を計算してみます。初速は、計算しやすいので90m/sとします。
 この条件で、10m進む毎の狙点に対する弾道の落差を計算してみます。
※あくまで10m毎です、0.1sec毎とかではありませんので注意。

初速と落差表1.png

初速と落差グラフ1.png

初速と落差見え方グラフ_90msのみ.png

 この場合、弾道は重力加速度の影響のみを受けますので、計算は非常に簡単です。また、ガリレオの実験を繙くまでもなく、重力加速度に対し物体の質量は影響しませんから、BB弾の重量はパラメータに含みません。
 重力加速度は、その名の通り加速度ですから、時間の影響が二乗で効いてきまして、弾道も発射後に文字通り加速度的に落下していきます。
 ここが重要で、HOP無しであっても、20~30m位までは逆にそんなに弾道が落ちません。というか、落ちたように見えません。二乗で効く時間の影響が、時間そのものが小さい為に、より小さくなっているわけです。特に射点からの見え方としては「ある点(ある時間経過後)から急激に落ちる(時間の影響がでかくなる)」ように見える原因がこれ、と理解出来ます。実際問題として、現実世界ではちょうどその辺から弾速の低下が目立つようになる事、遠近感の影響で遠くなるに従って弾の距離方向の見かけの移動量が小さく感じ、垂直方向の動きが相対的に目立つ事も重なって、余計にそう見えるものと七面鳥は理解してます。

 さて、ここでHOPによる揚力を付け加えてみます。揚力は弾丸の重量が影響しますが、面倒なので無視します(笑)。ただし、揚力が減衰しないと、いつまでも上昇する弾道になってしまいますので、とりあえず一定の割合でHOP回転=揚力が減衰すると仮定は導入します。
 ここでは、初期値としてHOPによる揚力を1.5G(14.7m/s2)、減衰を10m飛行する毎に0.2Gと仮定します。つまり初期値で重力加速度に対し0.5Gの揚力を持っている事になります。
 ……この、「揚力が減衰する」をどう計算で表現するかがキモで、前回はこれが上手くいかなくて頓挫したわけです。下向きに働く重力加速度と、上向きの揚力との間で単純な引き算で計算しようとして大失敗だったわけで、よくよく考えるに、要するにトータルでの加速度が上向き0.5Gから下向き1Gに、0.2G/10mというレートで変化するのだと。つまり、加速度の変化率、加加速度の考え方を持ち込まないとダメだったんだと気付きました。
 加速度は速度の微分、加加速度は加速度の微分、これを元に式を立てて変位を計算した結果がこちら。

初速と落差表_HOP追記.png

初速と落差グラフ_HOP追記.png

初速と落差見え方グラフ_HOP追記.png

 ……計算間違ってないだろうな……もし間違いがありましたら、こっそりご指摘いただきたく。
 それはともかく、えいやで各パラメータを決めた割には、割とそれらしい曲線を描いてると思います。
 このグラフのキモも、最初のうちは変位量が小さい事です。加速度ですから、時間が二乗(加加速度に至っては三乗)で効いてくるので、最初は小さく、そのうちドンドン変位が大きくなります。ただし、この場合はその加速度自体が時系列的に小さくなる(重力加速度に近づいていく)ので、40~50mあたりで最も浮いた後、今度は一気に落ちていきます。
 ついでに言うと、見た目的には、上がりはじめと落ち始めが奥の方なので、遠近感で余計に変化が小さく見えるでしょう。

 この計算は、①弾速が落ちない ②Hopが一定で減衰 というモデル条件下での計算ですが、見た目の動きは現実に割とあってると思います。
 なので、七面鳥的には、これで、「弾道は初速とHOP回転数のみで説明可能」という仮説は証明出来たと考えてます。

 現実には、弾速は空気抵抗により減速をしますが、これは計算式がありますし、HOP回転の減衰も計算可能のようです。初期のHOP回転数だけは高速度カメラか何かで実測するしか手がありませんが、これも実際に試した先達が居る事が解ってます。また、横風の影響も、同様に加加速度で解決出来ます(最初は横風風速がまるごと横加速度になり、弾の横移動=風速になるまで加速度が減り続ける)。

 これで、初速とHOP回転が得られるなら加速手段とHOP形式は何でも良い、つまり「流速じゃないとダメ」とか「加速シリンダーじゃないとダメ」なんてことはない、加速自体がゆるやかでも、ガスでも、極論するなら後ろから棒で押しても(既にエアガンではないですが)、必要な初速が得られるなら何だって違いは無い、HOPだって必要な回転数が得られるなら躓こうが固定だろうがイモネジだろうが何だっていい(弾道の安定性の問題はここではガン無視です)って事です。
#流速チューン自体を否定するものではありません。強HOPと初速を両立する手段(二次的に爆裂発射音も)として有効な手段と認識してます。加速シリンダーについても同様です。

 また、巷では「射程70m」というのが大射程銃の一つの基準となっているようですが、確かに70mに届かせること自体は可能とも思えます※。ただし、グラフを見る限り「低伸する弾道」のままでは不可能のようですが……
 大射程(70m超?)を優先して難しい不規則な距離と上下の狙点補正するか、低伸性と狙点補正の簡単さを優先して射程はそこそこ(50m弱?)で諦めるか……難しい所というか好みの問題でしょうか……低伸弾道設定のままで、仰角取ったらどこまで狙えるか(スコープ下端に標的を収めた状態で当たる最大距離)も試してみたいところではありますね。

※空気抵抗による弾速の減衰をシミュレートするなら、HOP到達最高高度はもっと高く、最高高度到達位置はもっと奥になると思われます(でないと減速後の急落の辻褄を合わせられない)。つまりもう少しHOPのキツい弾道になるわけですね。

※※改めて見るとHOP無し90m/sの比較弾道がちょっとおかしいですね、HOP有りより落差が小さい……どっかで計算間違ってるみたいですが、まあイメージなのでそこは見逃して下さい。

20180725追記:
結果的にグラフの見た目はそれっぽい形ですが、どうやら①そもそもHOP揚力の仮定が一桁大きすぎた ②加加速度を一桁間違ってた ようです。
なので、80m以降でどうも加加速度の計算結果が重力加速度を上回っていたようです。ので、とりあえず、HOP無しの10m毎の落差の差分をそのまま適用してグラフの見た目を整えました。

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コメント 4

これ以上ありません。

Nazgul

Nazgul

空気抵抗と空気摩擦の減衰を入れて弾道計算ができるようになれば・・・
実射した弾道の曲線に近づきますね。後半の山なりも再現できそうですね。
大学生メンバーが似たようなものを作ってますが、今のところ
データブックを超えられないです。
N数もサバイバルゲーム以外のプロットデータ(ベンチレスト)のほうが
多いので(数万発分)更に高いです。風の影響もとってます。
着弾範囲としては計算でも十分に出ますね。統計をとっていれば
風の影響も入れて縦横の補正に分ける事は十分可能だと思います。
私は実録データで実現できていますので、これをデジタルツールに
できればなぁーと。
フィードバックをかけられるので改善は継続中です。

二式大型七面鳥

二式大型七面鳥

>Nazgul様
おお、大学生メンバー!物理計算の課題にもってこいですね。
そも、コンピューターは砲撃の弾道計算のために発達したとか。
シキノートさんのサイトに数式いっぱいあるので参考になるかと。
七面鳥はシキノートさんの弾道学の同人誌買いました(笑)
モデル計算がリアルワールドのデータと整合するかを検証するのは大事ですよね。

ダガー

ダガー

これはすごいものを見たような気がします
本当にありがとうございますです

普段僕たちはエアガンの初速のわずかな上下で一喜一憂しますが、このグラフを見る限りサバゲでの一般的な交戦範囲では初速80くらい出ていれば90とそう大差ないように見受けました

そうであれば、わずかな初速向上のために大金をかけてカスタムを施したり好きでもないエアガンを選択したりするのはあまり効率的ではない、とも思えます

逆に、そのくらいの初速を出せるのであればエアガンは小型軽量のモノのほうが有利、とも言えますなw

いや、コン電が欲しい自分のための言い訳をしてるわけではないつもりだったりいやゲフンゲフン…

あるいは初速が多少足りない機種でもむしろ積極的に重量弾を選択してホップをキツめに掛けたほうがいいのかとか、いろんなことが考えられますな

今後もよかったら研究成果をおすそ分けくださいませw



追伸
このグラフみてマルイのクリンコフをドナドナするのやめました
多少初速がしょぼかろうが、実用的交戦範囲ではほかの次世代と大差ねぇような気がして、それなら使い慣れたクリンコフを二束三文で売り払ってまでしてほかのをIYHするより、クリンコフをそのまま使ったほうが効率がいい
ように思えたのですw

二式大型七面鳥

二式大型七面鳥

初速と落差HOP無し近接.png

>ダガー様
お褒めにあずかり光栄至極であります。
調子に乗って、HOP無しグラフを拡大してみました。80~90m/sでは、50m程度までは余り落差に差が見られませんね。
ここにHOPがかかるので、あとは味付け次第、HOP回転によって多少なりとも空気抵抗が減る(無回転時にはBB弾後方にカルマン渦が出来ると推定されますが、HOP回転によるコアンダ効果の副作用として後方乱流が抑制されるはず、と読んでます)と思うので、着弾までの時間以外殆ど差は無いかも。
七面鳥的には、初速もHOPも早く、強く掛けられるに越した事は無いですが、最高値ではなく安定して出せる値と、その値がどれくらい小さい幅で安定するかだと感じてます。特にHOPはBB弾の重量毎に最適値があるようですから。
なので、インドアの0.2g弾とアウトドアの0.25gor0.28g弾を両立させたいFA-MASのチューンで頭を悩ませてる訳で……0.28g一択のPSG-1(チャンバ廻りの交換がし易い)でデータ取りしてその結果を上手く反映出来ると良いのですが……

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