米国居住中に、実銃のH&K製MP5を何度も撃つ機会に恵まれていた。

凝り性な日本のガンマニアにもあまり知られていないことだが、僕の地元であるニューヨーク市には、SWATは存在しない。というより、ニューヨーク市警のESU ''Emergency Service Unit'' こそが、その後1960’年代中頃より全米の警察におけるSWATを編成した元(模範組織)となっている。NYPD SWATだ、などとぬかしているニューヨーカー気取りの田舎ラッパーはもちろん、安物のベルクロパッチを鵜呑みにして黒アーマーに貼ってしまっている兄貴には、一言忠告してあげるとよいだろう。
市内でもTimes sqやGrand Central駅の外など、テロにさらされる要素の高い、すなわち有名で観光客でいつもごった返すような公共の場所にいけば、比較的よく見かけるESU隊員達だが、Colt製のセミオート版M4を装備している隊員しか見たことはなかった。28th pricinctに勤めるオフィサーの友人のおかげで、そのESUの選抜トライアルに向けた射撃練習会にゲストとして参加する機会があった。バスで1時間ほど揺られ、ニュージャージー州とペンシルバニア州の境にある警察と民間が協力して運営する射撃場に来た、テーブルに置かれているのは大量のH&K MP5であった。一般人へのボディーアーマーの普及がどうのとか、すなわち貫通力がどうのとか、拳銃弾を使用するSMGは時代遅れかと思っていたが、そうでもないようだ。メインアームに貫通力を要求するのは、ボディーアーマーうんぬんというのはレアなケースであり、もっぱら、サスペクト(被疑者)が車のドアに守られている状況、すなわちカーチェイスなどの絡む状況が予想される場合であり、実際ESUでも、屋外での警備隊員にはM4だが、ワラントサービス(ガサいれ)やホステジレスキュー等で建物の中へ突入するCQB隊員にはもっぱらMP5を装備させるとのことだ。人口が密集し集合住宅の多いニューヨークでは、高速なライフル弾が壁や床を貫通し隣人を傷つけるリスクも負うことはできないだろう。

初めて実射したMP5だが、1マガジンで最も好きなフルオートガンになった。尋常ではないほどよく当たるのだ。魔法のように。SMGの中でも、というのではなく、全ての銃の中でこれほどまでに『当てようとするところに確実に当たり』、『ばらまこうとするところにばらまきたい範囲を思ったようにばらまける』銃、というのはMP5をおいて存在しないのでは?意外によく当たる、と好評のライバルであったUZIにくらべても、『UFOキャッチャーと手掴み』の差がある。H&Kのローラーロッキングシステム、恐れ入った。
考えてもみれば、それは、戦中はMG34/42、戦後はセトメ、G3と、フルパワーライフル弾を最小限のアクション(ロッキング作動)で高精度に撃ち出すために開発された構造であるが、それが搭載されたSMGというのは贅沢なものだ。ロールスロイスだ。

その後、同じレーベルに所属するDJメイトを連れて、同じ射撃場に足を運んだ。使い古されてはいるが、レンジマスターの所有するMP5を好きなときに使って良いと言われていたからだ。弾代も格安にしてくれるというのが申し訳なくて、自分のGlock19は車に残して、同口径のUSPをレンタルすることにした。H&K名作の競演とでもいうべきか、ビデオを撮影した。

近年、日本の警視庁もMP5を配備したと聞いた。実銃を、というより『実弾』を知らない日本のマニアたちは、ネット上で、なんで今時MP5なんだと不満を足れていた。UMPにしろとか、M4にしろとか。後進国向けの廉価版のMP5として開発されたUMPには、ローラーロッキングも高い命中精度も無い(だから口径を40とか45にして別物だよーって宣伝して売ろうとしていたのである。)、木造建築を基準に作られている日本の建築物の薄ーい薄ーい壁では、9mm拳銃弾であっても貫通する危険が非常に高い。そして東京の人口密度は今やニューヨークを超して世界一である。M4などで5.56mmを撃とうものなら平均的な家屋1−2軒分の壁は右から左に貫通していくのではないだろうか。どんな道具も、それを使う目的、用途と環境が合致してはじめて有益な存在である。

マスターピースというものは、やはり不動のものである。開発から40年あまりたった今でも、H&KMP5はirreplaceable(他に変えるべきものが無い)プロツールとして、世界中の『忍者』達の手に握られているのである。DJとしてのそれは、Technics のターンテーブルがそれにあたるだろうか。

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コメント 4

これ以上ありません。

コバ吉

コバ吉

MP5ユーザーです。読み物としても十分楽しめるレベルの高い良い内容でした(´∀`)♪
こういう現地を知ってる人ならではのお話もっと聞きたいですね☆

HIRO THA JAP

HIRO THA JAP

こんな長文を日本語で書いたのは10年ぶりぐらいですlol
むしろ日本語に触れられる媒体が雑誌や本ばかりでしたから書き物の能力が以上に高くなったかもしれませんね。

流れ者

流れ者

初めましてです~

A2モデルですか~
民生使用のMP5SFA2かと思ってたら、フルオートをかましてビビったw

HIRO THA JAP

HIRO THA JAP

はい、連邦法でclass-3weaponと規定され規制を受けるものです。一般人が所持する為には、その所持を許している州に居住することと、1985年以前に製造、輸入されたものであること、そして200ドルほどかかる登録審査が必要です。なにより現存数が限られていますのでMP5など現在も第一線で有名な銃は5000−8000ドルします。

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